ある旅人の話

先日、ある旅人に会おうと思っていた。

でも、会えなかった。

みんな会えているのに、なんで私だけ、会えないんだろう。

もしかしたら、これからずっと会えないのかもしれない。

会えないという宿命の中に生きているのかもしれない。

私は、彼に、自分の存在を覚えてくれているだけでいいと思っている。

そして私も、彼の存在を覚えているだけ。



人間、というかこの世界というものに、「完全」なものなど、何一つない。

どちらかがどちらかのことを忘れるかもしれないし、

感情が揺れ動いて拒絶するかもしれない。

この先、作家と旅人がどういう関係になっていくかなんてわからない。

他者との関係性というものは、流動的なものである。




人はいつか死ぬし、忘却するし、不変なものなど何一つない。

絶対に安心できる確証なんて存在しない。

それでも、人は、生きていくしかないし、

作家である私は、一日でも長く、旅人とのゆるやかで危うく、流動的な関係性を信じていくしかない。

執筆者:山本和華子




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