茶人たちは、15世紀後半になると、地味な名も無い茶碗に心の共鳴を覚え、そこに美が宿っていると考えるようになりました。
そんな中、千利休は、新たな考えを提唱し始めました。それが、「冷える・寂びる・枯れる・凍る」をキーワードとした茶の湯です。
その考えを持って、陶工だった長次郎に茶碗を作らせました。
そこから茶碗の歴史は、工芸から美術へと大きく転身していくのでした。
目次
赤楽茶碗 銘 無一物(むいちぶつ)
長次郎 桃山時代(16世紀) 頴川美術館
長次郎により焼かれた赤楽茶碗に対し「無一物」と命銘したのは、
裏千家を開いた仙叟宗室(せんそうそうしつ、千利休の曾孫)です。
無表情に徹して存在感を強める、その作行きに由来して、
禅の「無一物」の文字が仙叟宗室の頭に浮かんだのだそうです。
当時の陶芸界では「ろくろ成形法」が一般的でした。
しかし、この作品は手びねりによって茶碗を作り上げています。
志野茶碗 銘 卯花墻(うのはながき)
桃山時代(16世紀) 国宝 三井記念美術館
志野焼とは美濃焼の一種で、志野釉と呼ばれる白釉をかけて焼かれていることに、その特徴があります。
卯花墻は、志野焼の中でも絵志野を代表する名作です。
ろくろ成形に手づくねを加え、歪み、たわみをつけられ、個性的な形に仕上がっています。

信楽茶碗 銘 初時雨(はつしぐれ)
桃山時代(16~17世紀) MOA美術館
信楽焼は、滋賀県を中心に作られている陶器で、日本六古窯の一つに数えられています。
この初時雨は、木節粘土(きぶしねんど、炭化した木片が含まれている粘土)が使われています。
備前沓茶碗 銘 只今(ただいま)
桃山時代(17世紀) 後楽園古陶館
「只今」という銘をつけたのは、大正から昭和にかけて活躍した古美術商・広田松繁(ひろたまつしげ)です。
久しぶりにこの茶碗が故郷の備前(現・岡山県)に帰るという意味で「只今」という銘を付けたのだそうです。
執筆者:山本和華子
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