学校で習った富山の歴史といえば、「米騒動」くらいしか思いつきませんよね(笑)
しかし、富山の歴史は、米騒動だけではないんです。
今回は富山の売薬商人の歴史と発展についてみていきます。
富山の薬売りの概要とビジネススタイル
富山の薬売りは、江戸時代から始まった、富山県を拠点として日本各地へ置き薬を販売していたことを指します。
江戸時代、富山藩は、加賀藩から分割されて成立しました。
富山藩は資源に恵まれず、貧しさがありました。
富山藩は米を始めとした農業以外に何か特別な産業(当時でいえば物見遊山などの観光など)がありませんでした。
そんな富山藩にとって、薬の販路開拓は重要な収入源でした。
富山の薬は「先用後利(せんようこうり)」という、先にお客様に薬を使ってもらって、
後で代金を回収するというビジネススタイルを採用していました。
売薬商人は、お客さんを顧客管理台帳(懸場帳、かけばちょう)によって管理しており、
その台帳では配置した薬の種類と数、家族構成や健康状態がわかるようになっています。
いわば顧客のデータベースのようなものです。
そうした情報があると、次にどんな薬を配置したらいいかがわかってくるようになるのです。
富山の薬売りの間には、仲間組の示談という、商売のルールがありました。
商売先の監修を尊重する、定められた日に商売先へ出かけて帰ってくるようにする、
富山の薬の製法の秘密を守るなどのルールが定められていました。
富山売薬商人の組と差留
富山の売薬商人は、行商先を基準にそれぞれ「組」を構成していました。
富山の売薬商人は、旅先藩から、しばしば差留(さしとめ)を受けていました。
差留とは、領内での営業の免許を差し留められることです。
富山の売薬商人は差留を受けるたびにその解除のために奔走し、懸命に営業を続けてきました。
富山売薬を代表する「反魂丹」の原料の輸入方法
富山売薬を代表する薬に、「反魂丹(はんごんたん)」があります。
反魂丹の原料は、中国大陸や中央アジア、ヒマラヤ地方から輸入されていました。
このような薬の原料は、長崎会所を通じて輸入され、大阪船場に納められたあと、富山藩に運ばれていました。
これが本来の正規のルートだったのですが、このルートで仕入れることができる薬の原料は高価だったため、
原料の入手には正規のルート以外の、色々な方法が使われるようになりました。
富山売薬商人の組のひとつ、「薩摩組」
当時、富山売薬商人の組は全国に22組あったのですが、その22組のなかでも「薩摩組」は、
富山藩にとって特に重要な組でした。
正規の長崎ー大阪ー富山ルートから薬の原料を入手した場合、高価になってしまうため、
薩摩藩からの入手ルートが注目されていました。
薩摩組と北前船
薩摩組は、薬の原料の輸送において、西回り航路を使う北前船(きたまえぶね)で薬を運んでいました。
北前船とは、江戸時代、大阪と北海道を日本海回りで結んでいた商船のことです。
富山の売薬商人は、北前船により薩摩藩で薬の原料を入手するようになりました。
北前船と国際貿易
薩摩組は薬の原料を、琉球の進貢貿易(しんこうぼうえき、琉球と中国間の貿易のこと)から手に入れるために、
北前船を駆使し、蝦夷松前(現在の北海道)からの俵物や昆布を直接、薩摩へ運び込む役割を担うようになりました。
つまり、薩摩は琉球口貿易によって、薩摩ー琉球ー中国という、東アジアの国際的な貿易ネットワークを成立させていました。
北前船と昆布
少し余談ですが、なぜ北海道から昆布を中国へ輸出していたかについてですが、
当時の中国大陸では風土病が蔓延し、ヨードを含む昆布が漢方薬の原料として重宝されていました。
薩摩藩は、中国に昆布を売ることが利益になることを知っていたのです。
そして倒幕へ
さて。その薩摩の貿易というのは正規ルートではなく、要するに「密貿易」でした。
その薩摩の密貿易は、遭難事故によって表沙汰となってしまいました。
1836年、越後国長岡藩領に漂着した薩摩の船から、大量の禁制品が見つかったのでした。
江戸時代といえば、日本は本来鎖国していたはずです。
幕府が長崎の出島を通じて貿易の利益を独占しているはずでした。
しかし、幕府の知らないところで、琉球を通じても薩摩藩と富山の売薬商人(薩摩組)を通して密貿易がおこなわれていたのですね。
そりゃあ幕府もびっくりです。
薩摩藩は莫大な貿易利益を元手に、1851年に島津斉彬のもと、洋式の機械工場群を建設しました(集成館事業)。
島津斉彬は西洋事情に詳しかったため、当時の欧米の列強を危惧していました。
密貿易で得た貿易資金が結果的に倒幕資金となり、明治維新が迎えられたのでした。
執筆者:山本和華子
ツイッター(@wakako_kyoto)もやっています。よかったらフォローしてね♪
参考文献
びよーんとTOYAMA 売薬行商人の思想
IDEAASITY 富山の薬売りから学ぶ起業と継続的な成功
薩摩組の働きから見る富山売薬行承認の性格
世界史研究所 世界史の中の北前船 長崎・薩摩・富山
昆布と富山売薬商 北前船が運んだ倒幕のエネルギー