E.H.カーは、国際政治における理想主義を批判し、現実主義の立場を打ち立てた、イギリスの政治思想家です。
まず、彼の著書の一つ、『危機の20年』からみていきましょう。
『危機の20年』
①理想主義とは?
第1次世界大戦後にできた国際連盟には、「世界市民の声は正しい」という認識・価値観がありました。
この考え方は、アメリカ第28代大統領ウッドロウ・ウィルソンの名前を引用して「ウィルソン主義」と呼ばれることもあります。
国際連盟では、世界各国が平和・理想を掲げ、その価値観を大切にしていくべきとしました。
②現実主義とは?
E.H.カーは、理想主義を「権力を持つ国が、自らの利益を正義として装った偽善」とみなしました。
歴史とは、原因と結果の連鎖であり、その成り行きは知的努力によって分析・理解される学問であるとしました。
つまり、歴史とは、ただ「〇〇年になんちゃらしました」のような、暗記の羅列ではなく、
事実から知的努力によって何が見出されるか、というのが歴史学の真髄であると説いたのですね。
彼は、国家は理念や理想ではなく、各々自己の生存と利益のために行動するべきであるという視点も重要であるとし、これを「現実主義」と呼びました。
③結論
彼は、現実主義にも「向かうべき未来がない」という欠点があるとしました。
健全な政治的思考は、理想主義と現実主義の相互補完が大切であると説きました。

『歴史とは何か』
『歴史とは何か』とは、E.H.カーが晩年に著した書物です。
歴史は科学ではない。歴史に完璧な一般化(再現性)というものはない。
一般化と特殊化の双方を行き来し、そこから教訓を導き出すことが、「歴史化(歴史学)」の正しい姿である。
完全に客観的な歴史などありえない。未来をどうしていきたいかの立場によって、これまでの歴史の解釈も変わる。
歴史とは、現在と過去との絶え間ない対話なのである。
目指すべき未来像があるからこそ、過去(歴史)の意味・価値を語ることができるのである。
執筆者:山本和華子


