今日は、菜根譚(さいこんたん)についてご紹介していきたいと思います。
料理本のような名前の菜根譚ですが、「堅い野菜の根も苦にせずよく咬めば(苦しい境遇に耐え忍べば)、あらゆることは成し遂げられる」とする古事に由来します。
作者は、中国の明代の知識人である「洪自誠(こうじせい)」という人です。
16世紀後半から17世紀前半頃に生きた人と考えられていますが、詳しい伝記などは残っていません。
それではいってみましょう。
忙処(ぼうしょ)に性を乱さざらんとせば、すべからくかん処に心神を養い得て清(きよ)かるべし。
死時(しじ)に心を動かさざらんとせば、すべからく生時(せいじ)に事物を看得(みえ)て破るべし。
忙しいときに慌てふためきたくないと思うなら、暇なときに、しっかりと精神を鍛えておかなければならない。
死ぬ間際になって取り乱したくないと思うなら、普段からしっかりと物事の道理を見極めておかなければならない。
勢利粉華(せいりふんか)は、近づかざる者を潔しとなし、これに近づきて而(しか)も染まらざる者をもっとも潔しとなす。
智械機巧(ちかいきこう)は、知らざる者を高しとなし、これを知りて而(しか)も用いざる者をもっとも高しとなす。
華美権勢に近づかないのは清廉な人物である。
だが、それに近づいても染まらない人物こそ、もっとも清廉だと言える。
権謀術数を知らないのは高尚な人物である。
だが、それを知りながら使わない人物こそ最も高尚だと言える。
天の機かんは測られず。抑えて伸べ、伸べて抑(おさ)う。
皆これ英雄をは弄(ろう)し、豪傑を顚倒(てんとう)する処なり。
君子はただこれ逆に来(きた)れば順に受け、安きに居(お)りて危うきを思う。
天もまたその技りょうを用(もち)うる所なし。
天の働きは、予測することができない。試練を与えたかと思えば栄達を保証し、栄達を保証したかと思えば今度はまた試練を下す。
これにはさすがの英雄や豪傑たちも、振り回されたり、つまづいたりしてきた。
しかし、君子は逆境に突き落とされても甘んじて従い、平穏無事なときに有事の際に備えを忘れない。
だから、さすがの天も腕の振るいようがないのである。
暗中(あんちゅう)に欺隠(きいん)せざれば、明処(めいしょ)に愛用あり
人目につかないところでも、良心をあざむいてはならない。
その効用は、人前に出たときに現れてくる。
爽口(そうこう)の味は、皆乱腸腐骨(らんちょうふこつ)の薬なり。
五分ならばすなわち殃(わざわい)なし。
快心(かいしん)の事(こと)は、悉(ことごと)く敗身喪徳(はいしんそうとく)の媒(なかだち)なり。
五分ならばすなわち悔いなし。
口当たりのいい珍味は、すべて腸を痛め骨を腐らせる毒薬である。
ほどほどにしないと、健康をそこなう。
快適な楽しみは、いずれも身を滅ぼし徳を失う原因である。
ほどほどにしないと、悔いを残す。
執筆者:山本和華子
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