日本舞踊の演目「藤娘」の歌詞を、現代語に翻訳してみました

藤娘は、長唄です。

元禄時代、現在の滋賀である大津のお土産品に、「大津絵」というものがありました。

その大津絵の中に、藤の花房をかたげた美しい女性の絵が混じっていました。

その大津絵の人物を、舞踊として構成して演じたのが、この藤娘です。

藤娘は、大津絵から抜け出した若い娘が、男に恋をして踊るという内容です。


【藤娘】

若紫に十返り(とかえり)の花をあらはす松の藤浪

十返り・・・10回繰り返すこと。(松の開花を10回繰り返すことから)長い年月のこと。

藤浪・・・藤の房が風で波のように揺れ動く様子

【現代訳】薄紫の藤が、長い年月の間に何度も咲き、風で波のように揺れ動いている

人目せき笠塗笠(ぬりがさ)しゃんと 降りかたげたる一枝は

せき・・・物事をせき止めること

塗笠・・・黒漆を塗った笠。多くは女性が用いた

【現代訳】人目をせき止めるような(目立つ、華やかな)塗笠をかぶり、藤の枝を振りかかげている姿は

紫深き水道(すいどう)の水に染めて嬉しきゆかりの色の

川を紫色に染める、それは(あのときの)嬉しかったゆかりの色だった

いとしと書いて藤の花 しょんがいな

【現代訳】「いとし」と書いて藤の花と読もう、Oh my baby…

裾(すそ)もほらほらしどけなく 鏡山(かがみやま)人(びと)のしがりより

鏡山・・・滋賀にある地名

しどけなし・・・乱れている、だらしない

【現代訳】裾がちらちら乱れていて、鏡山の人の姿より、あなたの姿を

かへりみるめの汐なき海に娘姿の恥かしや

かへりみる・・・後ろをふりかえって見る、自分を反省する、心にかける

汐なき海・・・淡水の海、琵琶湖

【現代訳】琵琶湖に自分の姿をうつす彼女は、恥ずかしそうにしている

男心の憎いのは ほかの女子に神かけて あはづと三井のかねごとも

かねごと・・・約束の言葉、予言

神かけて・・・神に誓って、絶対に

あわづ・・・粟津街道

三井・・三井寺

「粟津街道」と「会わず」がかかっている

「三井寺の鐘」と「かねごと」がかかっている

【現代訳】男心が憎いのは、ほかの女の子には絶対に会わないと約束して、

堅い誓ひの石山に 身は空蝉(うつせみ)の から崎や まつ夜をよそに 比良の雪

石山・・・石山寺の観音様

空蝉・・・むなしい、はかない、からっぽの比喩

「空蝉」の「空」とから崎の「から」がかかっている

【現代訳】石山寺の観音様の前でかたく誓っても、心はもぬけのからで、

とけて逢瀬の あだ妬ましい

とけて・・・雪が「溶ける」と、関係が「うちとける」の意味がかかってる

【現代訳】唐崎であなたを待つ私をよそに、比良山の雪がとけるように、

あの女の子と打ちとけているの?妬ましい。

ようもの瀬田に わしゃ乗せられて

瀬田・・・地名

【現代訳】よくも、口車に乗せてくれたね

文も堅田のかた便り 心矢橋(やばせ)のかこちごと

堅田・・・地名

堅田の「堅」とかた便りの「かた」がかかっている

【現代訳】手紙も一方通行、恨みは恨みでいっぱい

松を植えよなら 有馬の里へ 植えさんせ いつまでも変はらぬ契り

【現代訳】松を植えるなら、有馬の里に植えなさい。

いつまでも変わらない間柄の約束として。

かいどり褄で よれつつもつれつ まだ寝が足らぬ

かいどり褄・・・着物の褄をつまみ上げて、歩きやすいようにすること

【現代訳】着物の褄をつまんでよれよれと歩いてしまう、寝不足で

アア何としょうかどしょうかいな わしが子枕お手枕

【現代訳】わたしがあなたの枕となりましょうか、どうしようかしら

空も霞の夕照りに 名残惜しむ帰る雁がね

【現代訳】空もかすんで夕日に照り映え、名残惜しいのですが、鳥の雁も帰る時間ですので・・・


執筆者:山本和華子

参考文献:旺文社 『全訳古語辞典』

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