東南アジアは「インドシナ半島」という地名が示すように、インド文化圏と中国文化圏の両方の影響を受けています。
インドシナ半島では大乗仏教が受容され、ベトナムでは儒教や道教が伝えられ、マレーシア以南ではイスラームを信仰する人々が多くいます。
マレー半島とスマトラ島に挟まれたマラッカ海峡は、古代から中国、アラビア、ペルシャ、インドなどの帆船が行きかい、「海の街道」として海洋交易路の要衝でした。
インドネシアは世界で最も多くのムスリムがいます。
バリ島は、インドネシアの中で唯一ヒンドゥー教が多い地域です。
音楽
モンスーン気候、湿潤熱帯気候の豊かな自然環境の中で、個々の民族集団がそれぞれ自給自足的な生活を営んできたために、社会や国家は比較的小規模なまま併存し、大帝国のような政治体制は成立しませんでした。
東南アジアにおいては、稲作を主とした農耕文化、アニミズムなどが共通の文化要素として挙げられます。
1、起源前後
東南アジアに古くから存在していた楽器は、この地域特産の竹や木、また青銅でできたものです。
この地域の最も根本的な音楽感覚は、五音音階を基本とし、二拍子が中心です。
リズムは西洋とは逆で、弱拍+強拍という構造を持ち、歌や楽器演奏は一つの基本旋律に基づいて、それぞれの旋律が積み重ねられるヘテロフォニーを特徴としています。
2、紀元後1~10世紀まで
この時代、インド化された王国が次々と成立します。
ラーガと呼ばれる装飾音を含む旋法や、即興演奏の技法があります。
また、インドのリズム周期(ターラ)の概念も見られます。
宗教儀礼と共に伝えられた経典の読誦法は、語りや歌唱様式に影響を与えました。
3、11~16世紀頃
高度な音楽舞踊文化を持っていたピュー族が9世紀に滅びて、ミャンマーでは新たにビルマ族のパガン王朝が登場しました。
12~13世紀のアンコール王朝には、ゴングを並べたゴング・チャイムを含む合奏の初期形態がありました。
タイの13世紀建国スコータイ王朝においては、アンコール王朝の宮廷音楽を受け継いで、旋律打楽器中心のピー・パート合奏がすでに成立していました。
ピー・パート合奏はタイの宮廷音楽の中核を成すものです。
長く中国の支配下にあったベトナムでは、中国音楽を基礎とした宮廷音楽を築いていきました。
ジャワでは、ワヤン・クリット(影絵芝居)の原型である絵巻物劇(ワヤン・ベベル)が11世紀ごろから行われていました。
13世紀以降、ジャワにおいてガムランが本格的な合奏形態へと発達しました。
16世紀はじめ、ヒンドゥー・ジャワ文化の伝統はバリへもたらされました。
建築・世界遺産
●アユタヤ(タイ王国)
古くから水上交易の要衝として栄えたアユタヤは、14世紀半ばにアユタヤ朝の都が置かれ、以降400年にわたり繁栄してきました。
17世紀には、日本との間でも朱印船貿易が行われました。
●バガン(ミャンマー連邦共和国)
バガンは、11~13世紀にアノーヤター王によって建国されたバガン朝の栄華を今に伝える古都です。
●カトマンズの谷(ネパール)
15世紀、この地を支配したマッラ朝は、カトマンズ、パタン、バドガオンという3王国に分裂しました。
3国はそれぞれ栄華を競い合いました。
カトマンズのダンバール広場には多くの寺院が立ち並び、パタンは工芸が盛んなことから「ラリトプル(美の都)」の別名がつけられています。
民族衣装
【インドネシア】
国民の多くはイスラム教徒で、各地域において多様な民族文化を形成しています。
腰巻衣(カイン・パンジャン)・・・ジャワ島ではバティックと呼ばれるろうけつ染めが盛んに行われ、日本でもジャワ更紗の名前で知られています。
儀礼用布(グリンシン)・・・経緯絣(たてよこがすり)はバリ島のテンガナン村でのみ織られています。
【ベトナム】
南北に細長いベトナムは、南部では熱帯モンスーン気候、北部は亜熱帯性気候と、気候も異なります。
アオザイは、クワンと呼ばれるパンツと組み合わせます。
アオザイは、中国のチーパオの影響を受けたものです。ベトナムは長く中国の王朝の支配を受けたため、生活全般に中国文化の影響が見られます。
祝祭
●ニュピ 3月、インドネシア
ニュピとはバリ・ヒンドゥー暦(サカ暦)の新年で「静寂の日」と言われています。
ニュピはバリ・ヒンドゥー教徒にとって1年で最も大事な日とされ、瞑想しながら悪霊が去るのを待つ日とされています。
ニュピの前日、悪霊の化身「オゴオゴ」を御輿にしてい、村中をねり歩く。オゴオゴが通った後を高僧が清めていくことで、バリ島全土が浄化されます。
料理
●バイン・ベオ(ベトナム)
古都フエの名物。米粉と片栗粉が主な材料です。
●モヒンガー(ミャンマー)
国民食ともいえる魚入りのスープ米麺。屋台で食べる朝食の定番でもあります。
●パッタイ(タイ)
米麺を炒めた屋台料理の定番です。
民族舞踊
●ペンデット(インドネシア、バリ)
バリ島の寺院の祭りをオダランといいますが、特に神々に捧げるために演じられる宗教的な舞踊をペンデットと言います。
●ブドヨ(インドネシア、ジャワ)
9人の女性による宮廷舞踊です。この舞踊は、天界の呪力や目に見えない神秘的な霊力を得るときにだけ演じられてきました。
●コォーン(タイ)
タイの仮面舞踊劇です。その起源は宮廷で上演されていた影絵劇のナン・ヤイから発達したとされます。
身体の動きは、優雅で曲線的な動作と、荒々しく力強い動作が対照的に演じられます。
●アプサラ(カンボジア)
カンボジアの舞踊は、8世紀に独自の文化を開花させたクメール文化のアンコール時代に始まります。
アプサラは、ヴィシュヌ神の霊を慰める供養の意味合いがあります。
執筆者:山本和華子
【参考文献】
井田仁康著『読むだけで世界地図が頭に入る本』
布野修司著『アジア都市建築史』
マイナビ出版『くわしく学ぶ世界遺産300』
学研プラス『世界の祝祭』
文化学園服飾博物館『世界の民族衣装図鑑』
青木ゆり子著『世界の郷土料理事典』