北部のヒマラヤ山脈からヒンドスタン平原、デカン高原、インド洋に至る南アジアの自然環境は多様です。
こうした多様な自然に統一性を与えているのが、季節風(モンスーン)です。
したがってこの地域の5~10月は雨季、11月~4月は乾季です。
宗教は、ヒンドゥー教、イスラーム、仏教と、国によって多数派を占める宗教は異なります。
インドのカースト制度は、アーリア人が先住民のドラヴィダ系を支配するために、輪廻転生観によってつくり出された社会制度です。
建築・世界遺産
インドの都市部で一般的に見られるのは中庭式住居です。
北インド、西インドのハヴェりがよく知られています。
ネパールのカトマンズ盆地のネワール族の住居は、バハ・バヒと呼ばれる中庭式住居で、古くから3~4層の集合形式を発達させてきました。
【世界遺産】
●ルンビニ(ネパール)
ルンビニは、仏教の開祖ブッダ生誕の地とされる仏教4大聖地の一つです。
ここには、紀元後6世紀、マーヤーデヴィ寺院が建造されました。
●キャンディ(スリランカ)
キャンディは、2000年以上続いたシンハラ王国最後の都です。
ダラダーマリガーワ寺院があるこの地は、スリランカにおいて最も重要な仏教の聖地とされています。
●ラニ・キ・ヴァヴ(インド)
ラニ・キ・ヴァヴは、傑出した芸術性と聖性を誇る階段井戸です。
この階段井戸は、紀元前3000年頃からインド各地で作られた地下水貯蓄システムの一つです。
音楽
1、サンスクリット語文献に見る古代の音楽理論
サンスクリット語による古代演劇理論書「ナーティヤ・シャーストラ」は、音楽の起源をブラフマーに求めました。
そして、ナーティヤ(演劇)の起源をヴェーダに求めました。
ヴェーダは、紀元前1500年頃からインド亜大陸に侵入したアーリア人の宗教知識を集大成したインド最古の文献群です。
祭式を実行する祭官の役割に応じて、神々への賛歌をまとめた「リグ・ヴェーダ」、詠唱を目的とする「サーマ・ヴェーダ」、祭礼を扱う「ヤジュル・ヴェーダ」、呪法を中心とする「アタルヴァ・ヴェーダ」の4つに分かれています。
ヒンドゥー教の根幹をなし、各地で上演される芸能の源泉ともなっている「マハーバーラタ」「ラーマーヤナ」の二大叙事詩の原形も、この頃に生まれました。
旋律に関する理論には、7つのスワラ(音)があります。
オクターブはまず22のシュルティ(最小の音程)に分割され、そこに7つのスワラが配列されます。
その配列の違いによって、シャッジャ・グラーマとマディヤマ・グラーマという2つの基本音階が作られます。
2、南インドにおける音楽文化の展開
近年、古代におけるサンスクリット文化とは異なったドラヴィダ文化が存在したことが明らかとなりました。
ドラヴィダ文化は、古代タミル語文学(サンガム文学)の分野です。
サンガム文学は恋愛や戦争をテーマとした抒情詩で、世俗的性格が強いです。
なかでも叙事詩「シラッパディハーラム」には、音楽に関する記述が多く存在します。
神に対して一心に愛を捧げ、絶対的な帰依を説くバクティ運動が当時ありました。
そのバクティ運動の指導者たちは、寺院を渡り歩き、歌い踊りながら自らの教えを広めていきました。
バクティ運動は、常に音楽と深いかかわりを保ち続け、カルナータカ音楽の思想的背景となっていきました。
料理
インドや中国などではスパイスやハーブの効用を食事に生かし、「医食同源」の思想に基づく伝承医学が体系化されています。
●キチュリ(インド)
紀元前300年頃から存在が記録されている、おかゆのような料理です。米とムング豆が主な材料です。
●ダルバート(ネパール)
レンズ豆のカレー風スープにごはんを添えます。標高が高く稲が育たない地域では、米の代わりにとうもろこしやそば、大麦、キビなどの穀物に置き換えることもあります。
●エマ・ダツィ(ブータン)
ブータンは高地で気温が低く、体を温めるためには唐辛子を多用した辛い料理がたくさんあります。
エマ・ダツィは青唐辛子を使用します。
祝祭
●ホーリー祭 インド、3月
さまざまな色の粉や水を掛け合い、春の到来の喜びをみんなで祝います。
●ハリタリカ・ティージ ネパール、8~9月
女性だけの祭りで、真っ赤なサリーを身につけ、寺院にお参りし、歌い踊ります。
そして、男性たちの無病息災をパールヴァティ女神に願うとされています。
●エサラ・ペラヘラ祭り スリランカ 7~8月
スリランカの古都キャンディで、シンハラ暦のエサラ月に開催されます。
キャンディ王国のキャンディアンダンスの行列と、美しく着飾った黄金の舎利容器を運ぶゾウの隊列が練り歩きます。
●インドラジャトラ ネパール 9月
カトマンズ地方に暮らすネワール族の人々の祝祭です。
神の王であるインドラ神(帝釈王)を迎え、生き神クマリの山車が巡行します。
●ティンプーのツェチュ祭 ブータン 10月
ツェチュ祭は、踊りや音楽を通して、ブータンにチベット仏教を伝えたパドマサンババを讃えます。
最大の見どころは、仮面をつけた僧侶による踊り「チャム」です。
民族舞踊
●バラタナーティヤム(インド)
元々寺院の儀式舞踊として、寺院直属の巫女デーヴァーダーシーが宮廷で踊ってきたものです。
12、13世紀のチョーラ王朝の時代に全盛期を迎えました。
●カタカリ(インド)
16世紀の南インド、ケーララ州で生まれた舞踊劇です。
身振りは主に手指(ムドラー)と感情表現(アビナヤ)です。
●キャンディアンダンス(スリランカ)
このダンスは元々、コホムバ・カンカーリヤという祭祀芸能に起源があるとされます。
現在、ヒンドゥー教の祭礼であるペラヘラ祭でこのダンスを見ることができます。
執筆者:山本和華子
【参考文献】
井田仁康著『読むだけで世界地図が頭に入る本』
布野修司著『アジア都市建築史』
マイナビ出版『くわしく学ぶ世界遺産300』
学研プラス『世界の祝祭』
文化学園服飾博物館『世界の民族衣装図鑑』
青木ゆり子著『世界の郷土料理事典』